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* 4: Conservation projects

1.「Project Carnivora」
雌チーターの血液中の性ステロイドホルモンの動態をラジオイムノアッセイにより分析し、プロジェステロンが10-12週間隔で周期的に変動することを明らかにした。また、妊娠判定に膣垢検査が有用である可能性を示唆した。さらに10頭以上の雄チーターから電気射精法により精液を採取して精液量、精液pH、精子形態、総精子数、精子生存性、精子運動性および精子先体染色性などの一般性状を分析し、チーターは精液性状が劣悪で、特に形態異常精子率が高いことを明らかにした。また死亡した雌チーターから摘出した卵巣より未熟卵母細胞を回収し、体外成熟、体外受精を試みた。さらにホルモン投与により卵胞の発育を促した雌チーターを対象として配偶子卵管内移植や腹腔鏡を利用した人工授精も試みた。なお、チーターに関するこれらの研究は、文部省科学研究費補助金基盤研究C2課題番号07660380により実施された。チーター以外のネコ科の野生動物では、トラで死亡した雄から精子を回収して一般性状の分折を行うとともに、発情徴候の見られない雌にホルモン処理を施して発情の誘起に成功した。また、死亡した雌ラッコ、雄カラカル、雌ヒョウ、雌雄アフリカジャコウネコ、雄ブチハイエナおよび雄エゾヒグマから精子や未熟卵母細胞を回収し、それらの一般性状を明らかにするとともに、未熟卵母細胞の体外成熟も試みた。

2.「Project Elephant」
アフリカゾウとアジアゾウの雌の血液中の性ステロイドホルモンの動態をラジオイムノアッセイにより分析し、いずれの種類のゾウにおいてもプロジェステロンは14-16週間隔で周期的に変動することを明らかにした。また、アジアゾウにおいて発情周期の判定に膣垢検査が有用である可能性を示唆した。さらに、死亡した雌のアジアゾウとアフリカゾウから未熟卵母細胞を回収して体外成熟を試みるとともに、交尾後膣から漏出したアフリカゾウの精子を回収して、凍結保存条件の検討を行なった。また、雄からの直接採精と雌への人工授精のためのトレーニングも実施中である。さらに、雌の卵巣の状態を超音波で観察する試みも始めた。

3.「Project Herbivora」
ニホンジカとシロオリックスにおいて、電気射精法により精液を採取し、その一般性状を明らかにするとともに、それぞれ自然発情雌とホルモン処理により人工的に発情を誘起した雌に、それぞれ凍結精子と低温液状保存精子を人工授精し、ニホンジカで妊娠に成功した。また死亡した雌シロサイ、雌雄マサイキリン、雄アミメキリン、雄グラントシマウマ、雌雄グレビーシマウマ、雄ガウル、雄イースタンボンゴ、雄セーブルアンテロープ、雄シタツンガ、雄ニホンカモシカ、雄シロオリックス、雄オジロジカ、雄バーラル、雄ゴーラル、雄キバノロ、雄ムフロン、雄ブラックバック、雄アダックス、雄フタコブラクダおよび雄カバから精子や未熟卵母細胞を回収し、それらの一般性状を分析するとともに、未熟卵母細胞の体外成熟と体外受精を試み、グレビーシマウマで凍結保存精子を用いた体外受精に成功した。

4.「Project Tortoise」
リクガメ類の精液採取法を確立する目的でインドホシガメを用いて射精条件の検討を行っている。なお、最近インドホシガメの効率的な人工孵化法の開発に成功した。

5.「Project Tanago」
日本在来の希少タナゴ類の精子の保存技術を開発する目的で、ニッポンバラタナゴ、ヤリタナゴ、アブラボテおよびタイリクバラタナゴを材料として腹部圧搾法により採取した精子の液状低温保存と凍結保存を試みている。

6.「Project Primates」
ワオキツネザル、ニホンザル、スーティーマンガベイ、ドリル、シロテテナガザル、チンパンジーおよびオランウータンから電気射精法により精液を採取し、それらの一般性状を分析した。また、シロテテナガザルでは新鮮精子を、チンパンジーとオランウータンでは凍結精子を用いて自然発情雌への人工授精も試みた。また、死亡した雌ゲルディーモンキー、雌雄フランソワルトン、雄ジェフロイクモザル、雌雄アカゲザル、雌ボリビアリスザル、雄チンパンジー、雌オランウータンおよび雄ニシローランドゴリラから、精子や未熟卵母細胞または胚を回収し、それらの一般性状を分析するとともに、未熟卵母細胞の体外成熟および体外受精ならびに胚(受精卵)の体外発育も試みた。

7.「Project Birds」
野生鳥類における採精法の確立と精液性状の解明を目的として、タンチョウ、ヒオドシジュケイ、シロカケイ、アオカケイ、ハイイロコクジャク、カルガモ、ハッカンおよびゴシキセイガイインコから腹部マッサージ法により精液を採取してそれらの一般性状を分析した。そしてこのうちのシロカケイでは新鮮精子の人工授精により産子の作出に成功した。また、様々な理由で自然孵化が困難であったマゼランベンギン、チリーフラミンゴ、オージュボンカラカラ、オシドリ、アメオシ、アカハシハジロ、サンケイ、べニジュケイ、ヒオドシジュケイ、ニジキジ、ミカドキジ、シロカケイ、ハイイロコクジャク、セイラン、マクジャク、シロクジャクおよびカンムリヅルの17種の鳥類においてウコッケイを仮母として托卵と育雛に成功した。

8.「Project Lesser-Panda」
繁殖生理を解明する目的で性行動の調査、解析を開始した。また、覚醒(非麻酔)下でストレスを与えずに採血や採精を行う目的で、馴致方法や保定術、精液採取法の開発も進めている。さらに、死亡した雌個体から未熟卵母細胞を回収し、その一般性状を分析した。

9.「Project Cetacea & Sirenia」
死亡した雌オタリアから未熟卵母細胞を回収し、その一般性状を分析した。シャチでマッサージ法による精液採取のトレーニングを開始した。また、バンドウイルカとシャチで超音波による卵巣観察の試みも開始した。

10.「Project Zoo-Bank」
限られたスペースで遺伝的多様性を維持しながら種の保存を行なう場合、配偶子(精子や卵子)や胚の状態での保存が有効な手段となるので、上記の各プロジェクトにおいて入手された約60種100個体の動物の配偶子は、家畜化、ペット化あるいは実験動物化されている近縁の動物種の方法に準じて凍結した後、神戸大学農学部附属農場の配偶子保存室などにおいて液体窒素中で保存している。

11.「その他のプロジェクト」
有袋類と貧歯類ではそれぞれアカカンガルー、クロカンガルー、オオカンガルーおよびクィーンズランドコアラとオオアリクイの死亡した雄から精子を回収し、それらの一般性状を分析した。

12.「研究会議」**

1993年度は神戸大学農学部附属農場において開催した。近畿の動物園やサファリパーク、大学や公立の研究機関など10施設から17名が参加し、各プロジェクトの進捗状況が公開され、活発な意見交換が行われた。

1994年度は姫路市内のホテルにおいて開催した。参加者は12府県の動物園やサファリパークの獣医師と飼育担当者、大学や公立の研究機関の研究者など約60名で、各プロジェクトの進捗状況の報告のほか、ニワトリとチーターからの採精とこれらの精子の凍結保存の実技公開が行われた。また平成6年度神原藤左尾学術振興基金の助成により2題の教育講演を行った。

1995年度は、姫路市内の会議場において開催した。参加者は全国の16施設の動物園などから約80名で、各プロジェクトの進捗状況の報告のほか、3題の教育講演を行った。

1996年度は、岐阜市内のホテルにおいて開催した。参加者は全国の24施設の動物園などから約90名で、各プロジェクトの進捗状況の報告のほか、4題の教育講演を行った。

1997年度は、姫路市内の会議場において開催した。参加者は全国の32施設の動物園などから約100名で、各プロジェクトの進捗状況の報告のほか、2題の教育講演を行った。

1998年度は、京都市内のホテルにおいて開催した。参加者は全国の38施設の動物園などから約100名で、各Conservation Projectの進捗状況の報告のほか、2題の教育講演を行った。また全体会議の席上で、Zoo-Bank運営委員会の設置が認められた。

**研究会議の詳しい項目については、以下の第5-10章をご覧ください。


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